2010年6月16日 星期三

諸外国における国民投票制度の概要

諸外国における国民投票制度の概要
国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 584(2007. 4.26.)
政治議会課憲法室ISSUE BRIEF

国民投票制度は、国によって多様である。憲法改正のために行う国民投票はもちろん、一般の法律制定のためやその廃止のための国民投票もある。一定の数の国会議員や国民の要求により国民投票が行われる場合もある。本稿では、国民投票の対象、法的枠組み、投票運動規制、実施方法など、国民投票制度を構成する主要な要素ごとに、各国がどのような制度になっているかを簡潔に紹介する。取り上げる国は、国民投票の経験が豊富なイタリア、スイス、フランスを中心に、アイルランド、イギリス、オーストラリア、韓国、スウェーデン、デンマークその他の諸国である。

1 国民投票の対象
2 国民投票制度の法的枠組み
3 投票権年齢
4 国民投票の投票期日
5 投票運動に対する規制
6 投票運動に対する助成
7 投票方式
8 最低投票率制度
9 国民投票の実施に係るコスト
10 同一案件の凍結

調査と情報
第584号 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
1 国民投票の対象
(1)憲法改正
多くの国は、憲法改正国民投票の制度を有している。このうち、我が国と同様に、憲法改正の手続として義務的国民投票1が課されている国は、アイルランド(憲法第46条)、オーストラリア(憲法第128条)、韓国(憲法第130条)、スイス(憲法第140条)、デンマーク(憲法第88条)などである。
これとは異なり、憲法改正の場合の国民投票が任意的とされている国もある。イタリアの場合は、憲法改正は、3か月以上の期間を置いた2回の両院の議決により行われる。しかし、一院の5分の1の議員、50万人の有権者または5つの州議会が国民投票を要求すれば、2回目の表決において両院が議員の3分の2で改正案を可決しない限り、国民投票を実施しなければならない(憲法第138条)。
スペインでは、憲法の全面改正ないし特定の条項の改正の場合にのみ国民投票が義務的要件とされ、そうでないときは一院の10分の1の議員の要求により国民投票が行われる(憲法第167、168条)。
スウェーデンでは、基本法2の改正には、国会(一院制)における、総選挙を挟む2回の議決を要するが、第1回の議決の後に3分の1の議員の要求があれば、その総選挙と同時に国民投票が行われる(統治法典第8章第15条)。
フランスはこれらとは異なり、国会議員が提出した憲法改正案は国民投票を要するが、政府が提出した場合は、大統領がこれを両院合同会議に付託すれば、国民投票は行われない(憲法第89条)。これまでの事例では、国民投票より両院合同会議による憲法改正の方が多い。
主要国のうち、アメリカ、オランダ、カナダ、ドイツ、ベルギーでは、住民投票は別として、憲法改正の場合も含め国レベルでの国民投票の制度は、憲法上は規定されていない。フィンランドでは、国民投票についての規定はあるが(憲法第53条)、憲法改正は国会選挙を挟む2回の国会(一院制)の議決で成立しうる(同第73条)。
(2)法律、条約等
憲法改正のほかに、法律なども国民投票の対象とする国は多く存在するが、当然あらゆる案件について認められるわけではない。案件となる事項が限定され、または除外事項が規定されることが多く、また、ほとんどの場合は国民投票の実施は任意的となる。
イタリアでは、法律の全部または一部廃止の是非を問う国民投票の制度があるが、租税・予算、大赦・減刑、国際条約の批准の承認に関する法律は、これを行うことができない(憲法第75条)。
スイスでは、集団安全保障機構や超国家共同体への加盟、および憲法上の根拠のない1年を超える効力を有する緊急立法は、国民投票に付すことが義務づけられ(憲法第140条)、また連邦法律一般や一定の条約その他が、5万人の有権者または8つの州の要求により国
1 義務的国民投票とは、国民投票を実施することが必須の要件とされている場合をいう。これに対し、権限のある機関(一定数の議員、大統領・政府、一定数の有権者等)が要求すれば実施されるものを、任意的国民投票という。
2 スウェーデン憲法は、統治法典、王位継承法、出版の自由に関する法律、および表現の自由に関する基本法の4基本法で構成される。
1 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
民投票に付される(同第141条)。このように、いくつもの種類の案件が国民投票に付されうることになっており、実際、国民投票は年に数回と頻繁に実施されている。
3 ただし、国際機関への主権委譲に関する法律案は、国会議員の6分の5の多数で議決されれば国民投票にはかけられない。
4 以下の各国の法制度における「国民投票」には、適用地域のより狭い「住民投票」が含まれることもある(「referendum」の語は両者を区別しない)が、本稿では「国民投票」の語に統一した。
5 イギリスの「憲法」とは、単一の憲法典ではなく、重要な制定法、判例法、憲法慣習等からなるとされる。国民投票の対象については、政治的に重要な事項が必要に応じて国民投票に付されることになる。
6 吉田信「オランダの憲法事情」『諸外国の憲法事情 2』(調査資料 2002-2)国立国会図書館調査及び立法考査局, 2002, pp.46-47.
デンマークでは、国際機関への主権委譲と選挙権年齢の変更に関する法律案については、国民投票に付すことが義務づけられ(憲法第20、29条)3、外交問題に関する法律案については、特別法により国民投票に付すことができる(同第19、42条)。また、それ以外の法律案については、国会の3分の1の議員の要求により国民投票に付される(同第42条)。ただし、予算、公務員法案、給与法案、帰化法案、課税法案、国際条約の履行のための法律案、王室に関する法律案の一部等は、国民投票の対象にはならない(同条)。
フランスでは、国民投票に付託できる法律案の種類は、「公権力の組織に関する法案、国の経済または社会政策およびそれに関係する公役務に関わる法案、憲法に違反しないが諸制度の運営に影響を及ぼすであろう条約の批准を承認することを目的とする法案」と定められている(憲法第11条)。
2 国民投票制度の法的枠組み
国民投票制度を有している各国において、その法的枠組みは多様である4。
アイルランドは「1994年国民投票法」、イタリアは1970年の「憲法に規定する国民投票及び国民の立法発案に関する規範」(以下イタリアに関する箇所で「国民投票法」という。)、オーストラリアは「1984年国民投票手続法」、韓国は1989年の「国民投票法」、スウェーデンは1979年の「国民投票法」、スペインは1980年の「国民投票の各種の方式の規制に関する組織法」と、これらの各国は国民投票を一般的に規律する制定法を有している。
より広く政治や選挙に関する法律のなかに、国民投票に関する規定が盛り込まれている場合もある。スイスの1976年の「政治的権利に関する連邦法」(以下「政治的権利法」という。)などがそうである。
イギリスは、1975年に国民投票法を制定したが、これはこの年に全国レベルでは初めて実施された国民投票のためのものであった。その後、「2000年政党・選挙・国民投票法」が制定された5。
オランダは憲法上、国民投票制度を有しない国であるが、2001年に、2002年1月から2005年1月1日までの時限立法として国民投票法を制定した6。この法律に基づく実施例はない。2005年6月の欧州憲法条約批准に関する国民投票は、そのために制定された特別法に基づいて実施された。
フランスには、国民投票の実施手続に関する恒久的な法律はなく、個々の国民投票のたびに、その実施と運動に関して各々デクレ(命令)が発せられる。国民投票に関するデク
2 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
7 山岡規雄「イタリア」『諸外国の憲法事情』(調査資料 2001-1)国立国会図書館調査及び立法考査局, 2001, pp.123-124.
レの内容は、憲法改正案の場合と法律案の場合とで、大きな違いはない。
3 投票権年齢
憲法に国民投票の投票権年齢が明記されている国としては、スイス(憲法第136条)、フィンランド(憲法第14条)、ポーランド(憲法第62条)が挙げられる。いずれも、選挙権年齢などと併せ、国民投票の投票権年齢が18歳と規定されている。
憲法に選挙権年齢が明記され、国民投票の投票資格が選挙資格に準ずると規定されている国としては、アイルランド(憲法第16条第1節、第47条第3節)、スウェーデン(統治法典第3章第2条、第8章第15条)が挙げられる。いずれも18歳である。
イタリア(憲法第75条)、オーストラリア(憲法第128条)、韓国(憲法第130条)では、国民投票の投票資格は選挙資格に準ずることが憲法に定められているが、具体的な年齢は憲法でなく一般の法律に委ねられている。イタリアとオーストラリアでは、下院議員選挙権に従い18歳である。韓国では、公職選挙法上の選挙権年齢が2005年8月に20歳から19歳に引き下げられた(第15条)。しかし、国民投票法上は投票権年齢は20歳のままであり(第7条)、選挙権と同様の年齢引下げが国会で審議中である。
法律レベルでのみ規定される国としては、デンマークが、国会選挙法のなかで、国会議員選挙権に従い18歳と規定している(同法第1、96条)。フランスは、先に述べたとおり、国民投票に関する恒久法を有しないので、欧州憲法条約批准の是非を問う国民投票(2005年5月実施)の際に発せられた「国民投票の組織に関する2005年3月17日のデクレ第2005-237号」(以下「組織デクレ」という。)を例に挙げると、投票権年齢については、下院議員選挙権が準用されて(組織デクレ第1条)18歳だった。
4 国民投票の投票期日
憲法改正などについて国民投票が実施されるときは、国会の議決からどのくらいの期間が設けられているだろうか。
イタリア憲法改正の場合、まず、国民投票の実施を要求できるのは、改正案に関する国会の最後の可決・公示後、3か月以内とされる(憲法第138条)。次いで破毀院(最高裁判所に相当する)の国民投票中央事務局が、国民投票の要求の合法性について審査し、30日以内に決定する(国民投票法第12条)。ここで実施が許可されれば、60日以内に大統領令により国民投票が公告される。投票の期日は公告後50日から70日の間の日曜日に設定される(同第15条)7。
オーストラリア憲法改正の場合は、改正案が両院を通過した後2か月以上6か月以内に国民投票に付されると規定されている(憲法第128条)。実施日は、総督による国民投票実施の令状により、当該令状が発せられた日から33日後~58日後の間に定められる(1984年国民投票手続法第9条)。
フランスについては、実例を挙げれば、2000年に行われた大統領の任期短縮に関する国民投票では、6月29日に国会で最終的に採択され、87日後の9月24日に国民投票が実施
3 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
8 『衆議院欧州各国国民投票制度調査議員団報告書』2006, pp.130-131, 180.
9 同上, pp.15, 180.
された。また、欧州憲法条約批准に関する2005年国民投票では、2月28日に批准手続に必要な憲法改正が国会で議決され、90日後の5月29日に国民投票が行われた。
スウェーデン基本法改正の場合、投票期日までの期間算定の起点は国会議決ではない。基本法の改正が国民投票に付される場合については、1(1)に述べたとおりであるが、その期日については、改正案が最初に国会に提出されてから9か月以上を経過していなければならないと規定されている(統治法典第8章第15条)。
投票期日までの期間が非常に短いのは韓国である。憲法改正案は、国会を通過した後30日以内に国民投票に付される(憲法第130条)。大統領は、投票日の18日前までに、投票日と改正案を同時に公告すると規定されている(国民投票法第49条)。
国民投票が年に数回実施され、しかも1度に数件の案件が国民投票に付されるスイスでは、投票期日はあらかじめスケジュール化されており、むしろ投票に付される案件を確定するのが、遅くとも投票期日の4か月前と定められている(政治的権利法第10条)。
5 投票運動に対する規制
イタリアでは、1956年の「選挙運動の規律に関する規範」により、掲示物の掲示場所や大きさ等が規制される。また、2000年の「選挙運動期間及び国民投票運動期間の情報機関への平等なアクセス並びに政治的情報提供に関する規範」により、すべての政治主体に対し情報手段への平等なアクセスを保障する(同第1条)という趣旨で、放送事業者による投票の指示や投票の選好の表明の禁止(同第5条)、世論調査の公表に関する規制(同第8条)、行政機関による情報提供活動の禁止(同第9条)が定められている。
オーストラリアでは、選挙管理委員等による運動、病院関係者が患者に対して行う運動、贈収賄、妨害等が禁止されている(1984年国民投票手続法第118~120条)。宣伝に関しては、広告、ビラ、パンフレット、ビデオ等には責任表示を付すこと(同第121条)、新聞・雑誌掲載の宣伝には「広告」と見出しを明記すること(同第124条)が定められている。また、虚偽の情報の禁止(同第122条)、集会の妨害の禁止(同第134条)も規定されている。
韓国では、政党法上の党員の資格がない者は運動を行うことができない(国民投票法第28条)ほか、拡声装置・自動車等の使用制限、虚偽放送等の禁止、新聞・雑誌等の不法利用の制限、特殊関係を利用した運動の禁止、戸別訪問の禁止、署名・捺印運動の禁止、各種集会等に対する規制、公務員等の出張制限、演説会場での騒乱行為の禁止、夜間演説会の禁止、特定人誹謗の禁止など、詳細な規制が定められている(同第36~48条)。
スイスでは、政治的権利法には、国民投票運動の規制に係る具体的な規定はみられない。一般的な刑法や道路交通法、州法や自治体の規則などに抵触しない限り、運動は基本的に自由であるとされる8。自動車・拡声器等により運動を行うことは、交通秩序が乱れ、国民の安全に危険が及びかねないという趣旨で、交通法上規制されている9。投票に対する妨害および強制ならびに買収の禁止については、刑法で規定されている(第279~281条)。
フランスでは、2005年国民投票の際に発せられた「国民投票のための投票運動に関する2005年3月17日のデクレ第2005-238号」(以下「運動デクレ」という。)を例に挙げる
4 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
10 Michael Gallagher and Pier Vincenzo Uleri ed., The referendum experience in Europe. [London]: Macmillan Press Ltd, 1996, p.247.
11 山田邦夫「アイルランドの憲法事情」『諸外国の憲法事情 2』前掲書, p.141.
12 Gallagher and Uleri ed, op.cit., p.26.
13 Ibid, p.143.
14 Ibid, p.60.
15 Ibid, p.247.
と、運動規制の内容については、基本的に選挙法典における規定が準用される(運動デクレ第2条)。これに従えば、集会や掲示物に関する規制、投票前日以降のテレビ・ラジオ等による宣伝の禁止、公務員による政見発表書等の配布の禁止、メディアにおける商業宣伝の利用の禁止等が、選挙におけると同様に国民投票運動にも適用される。しかし、選挙法典に規定される買収の禁止については、運動デクレには準用規定がない。
6 投票運動に対する助成
以下(1)~(3)に示すように、公費助成については、公費が賛成派の運動のためにのみ使用される場合、賛否両派に支給される場合、および両派の頂上団体に支給される場合とがある。スイスでは公費助成は行われないとされている10。また、公費助成とは別に、(4)に示すように、運動主体に対しメディアや郵便の無償利用を認める制度もある。
(1)賛成派の運動のみへの公費使用
アイルランドでは、かつては政府が国民投票を通すための運動に公金を使用する慣行があったが、1995年にこうした方法が最高裁により違憲と判断された11。
オーストリアでは、1994年6月に実施された欧州連合加盟についての国民投票に際して、加盟賛成派に対して公費助成が行われた12。結果は、投票率82.35%、賛成66.58%で可決された。
(2)賛否両派への公費助成
ノルウェーでは、1972年9月の欧州共同体加盟、1994年11月の欧州連合加盟についての国民投票の各々において、賛否両派の主要な運動主体への公費助成が行われた13。結果は、ともに否決されている。
フィンランドでは、1994年10月に実施された欧州連合加盟についての国民投票の際に、「欧州連合国民投票法」において、各派の運動への支援に関し平等ベースでの予算措置が規定された。その目的は、異なる選択肢とその効果・意義についての周知を促進することにあった。ところが政党は投票運動の中心には立たず、政党とは別の一時的な組織や市民団体が運動を行った。しかも賛成派・反対派ともに、公費助成の対象となるような頂上団体が存在せず、政府は中立派をも含む多くの団体に交付した14。国民投票の結果は、投票率70.40%、賛成56.88%で可決された。
フランスでは、以前は公費助成の制度がなかったが15、2005年国民投票のための運動デクレに、公的助成に関する規定が明記された。国会に一定数の議席を有しまたは直近の欧州議会選挙で一定の得票率を得た政党等が、内務省に申請して投票運動の主体となる資格を得る(運動デクレ第3条)とともに、運動において要した経費が、80万ユーロ(約1
5 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
16 Ibid, p.37.
17 間柴泰治「イギリスにおける国民投票運動に対する公的助成制度」『外国の立法』231号, 2007.2, pp.87-88.
18 Gallagher and Uleri ed, op.cit., p.179.
19 山岡規雄「スウェーデンの国民投票制度」『外国の立法』219号, 2004.2, pp.2-3.
20 間柴 前掲論文, pp.88-89.
21 『衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団報告書』2006, p.234.
億2000万円)を限度として国から償還される(同第8~10条)。
デンマークでは、法文上は反対派への公費助成はないが、政治的公正さの観点から両方の側が公金を使用することが広く受け入れられているとされる16。
(3)両派の頂上団体への公費助成
イギリスでは、2000年政党・選挙・国民投票法において、国民投票の運動主体に対する公費助成が規定されている。同法によれば、一定の要件のもとに国民投票の運動主体が認定され(同法第105条)、認定運動者のうち賛否両派を代表する頂上団体(投票の選択肢が3以上あるときはそれに見合う数の頂上団体)が公費助成の対象として指定される(同第108条)。各頂上団体への助成金は、60万ポンド(約1億4000万円)を上限として同額とされ(同第110条)、支出に対しては事後的に統制される17。既に、1975年6月に行われた国民投票(欧州共同体加盟継続を問うもの)において、賛成・反対双方の頂上団体に対し各125,000ポンド(約2800万円)の助成金が交付された実績がある。
スウェーデンでは、1955年以来、国民投票の際にその運動主体に公費助成が行われてきている18。2003年9月に実施されたユーロ導入に関する国民投票の事例では、公費は、運動団体のうち賛成・反対各派の頂上団体と、各政党とに交付された。運動団体各派内での配分方法はそれぞれの裁量に委ねられた。運動団体および政党への助成額は、賛成派へは計6450万クローナ(約8億9700万円)、反対派へは計5550万クローナ(約7億7200万円)であった19。国民投票の結果は、投票率82.60%、賛成42.01%で否決された。
(4)投票運動のための無償措置
イギリスでは、2000年政党・選挙・国民投票法により、頂上団体が行う投票運動のために、郵便、集会用会場、放送枠の無償利用が認められている(同法付則第12第1~4条)20。
イタリアでも、放送枠が賛否両派に平等に与えられ、各派は無償でその枠内で自由な宣伝ができる21。
韓国では、賛否両派の政党に対し、20分間のテレビ・ラジオ演説を各派3回以内放送することが認められ、放送費用は国が負担する(国民投票法第30条)。また、演説会場として公共施設等の無償利用が保障されている(同第33条)。
フランスでは、2005年国民投票における運動デクレにより、運動参加資格を有する政治団体に対し、ポスター掲示板の割り当て(運動デクレ第4条)、テレビ・ラジオの放送時間の割り当て(同第5~7条)が認められた。後者については、国営テレビおよびラジオの各140分のうち、各運動主体(8団体)に対し10分が均等に配分され、残時間は国会における議員数および欧州議会選挙における得票数に比例して配分された。
6 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
22 『衆議院欧州各国国民投票制度調査議員団報告書』前掲注8, pp.130, 133.
23 “Folkomröstning 14 september 2003 om införande av euron”, Valmyndigheten のウェブサイト
7 投票方式
まず、投票用紙の賛否の欄に印をつける方式がある。アイルランドでは、投票用紙に案件のタイトルが付され、その下に「賛成(YES)」と「反対(NO)」の欄が印刷される(1994年国民投票法第24条、付表第2の第1号)。投票人は、賛否の欄のいずれかに「X」印をつけ、投票用紙を折りたたんで投票箱に入れる(同第32条および1992年選挙法第101条)。公印を欠く投票用紙、白票、「X」印が賛否両方の欄に記されているものやいずれとも判別しがたいもの、投票した個人を特定できるようなものは、無効票となる(同第34条)。イタリアでは、投票用紙の「賛成(SI)」「反対(NO)」と印刷された文字の上またはそれを囲む枠に印をつける(国民投票法第20条)。韓国では、投票用紙の賛否の欄のいずれかに「○」印をつける(国民投票法第60条)。正式でない用紙、白票、賛否の両方に印があるもの、他事記載等は無効票となる(同第78条)。
また、投票用紙に賛否の文言を書き込む方式もある。オーストラリアでは、投票人は、投票用紙の該当欄に、賛成のときは「Yes」、反対のときは「No」と書き入れ(1984年国民投票手続法第24条)、投票用紙を折りたたんで投票箱に入れる(同第35条)。投票所長のサインまたは公印のない投票用紙、白票または意思表示の不明なもの、2以上の記入があるもの、投票した個人を特定できるようなものは、無効票となる(同第93条)。スイスでは、法律上の規定は存在しないものの、当該案件に賛成するかとの問いに対する回答欄に賛成か反対かを記入する22。
さらに、賛否などを記した投票用紙を投票人が選んで投票箱に入れる方式もある。フランスでは、2005年国民投票の際の組織デクレを例に挙げると、「賛成(OUI)」「反対(NON)」と印刷された各々の用紙(組織デクレ第2条)のうち、どちらか選んだ方を封筒に入れて投票箱に入れる(同第8条、選挙法典第60条)。スウェーデンでは、賛成、反対など国民投票の対象となっている各提案に対応した投票用紙のほかに、白票の投票用紙がある(国民投票法第7~9条)。いずれかの用紙を投票所で交付される封筒に入れ、封筒を閉じたうえで投票管理人に提出する(選挙法第10章第4条)。2003年9月のユーロ導入の国民投票の結果を選挙管理委員会のサイトでみると、賛成票・反対票とともに白票も有効票のうちに数えられている23。しかし、だからといって白票が常に反対票と同じ効果を有するわけではない。すなわち、憲法改正国民投票の場合は、反対票が一定数を超えると憲法改正案は否決されると規定されている(統治法典第8章第15条)ので、この場合には白票は賛成票と同じ効果をもつことになる。ただし、まだ実施例はない。
8 最低投票率制度
各国の国民投票制度のなかには、最低投票率を何らかの形で要件としている例もみられる。以下にそのタイプ別に紹介する。
7 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
24 国民投票の結果が、法的拘束力を有するものを拘束的国民投票といい、法的拘束力を有せず、諮問的な効果のみ有するものを諮問的国民投票という。後者の場合は、事後に議会等において正式な決定が行われることが多い。
(1)成立要件型
国民投票において、有権者総数の一定割合が投票しなければ、国民投票そのものが成立しないというのが、成立要件型である。拘束的国民投票24においては、最低投票率に達せず成立しなかったときは、たとえ過半数が賛成票であっても、否決と同じ効果を有する。
韓国では、憲法改正の国民投票について、有権者の過半数という最低投票率が設けられている。すなわち、「国会議員選挙権者の過半数の投票および投票者の過半数の賛成」が、憲法改正の可決要件とされている(憲法第130条)。ロシアにおいては、新憲法制定が国民投票の対象となりうるが、選挙権者の過半数が投票し、かつ、投票者の過半数が賛成した場合に採択される(憲法第135条)。
(2)拘束要件型
成立要件型と異なり、国民投票そのものはいかなる投票率であれ成立するが、一定の投票率に達していることが、投票結果が法的拘束性を有するための要件となる。その投票率に達しなかったときは、投票結果は単に諮問的なものとなるにすぎない。
ポーランドでは、国際機関への主権の委譲や国家的重要事項について、任意的に国民投票に付された場合、有権者の過半数が参加すれば拘束的となる(憲法第90、125条)。ポルトガルにおける国民投票でも、拘束力をもつには有権者の過半数の投票が要件とされる(憲法第115条)。
(3)最低(絶対)得票率
通常の過半数要件に加え、有権者総数の一定割合以上が賛成することが、国民投票における可決要件とされる。絶対得票率に下限を設けるものである。最低投票率と異なり、有権者全体に占める賛成の割合が問題となるため、高い投票率が要求されることにもなりうる。たとえば、デンマークにおける憲法改正国民投票の場合は、可決には投票の過半数かつ有権者総数の40%という要件が課されている(憲法第88条)。
(4)法律廃止国民投票における最低投票率
国民投票によって法律を廃止し、または法案を否決するようなときに、最低投票率が設けられる例も存在する。イタリアでは、50万人の有権者または5つの州議会の要求により、法律等を廃止する国民投票が行われる(憲法第75条)。有権者の過半数が投票し、有効投票の過半数が賛成の場合、法律等が廃止される(成立要件型)。また、アイルランド(憲法第27条)やデンマーク(憲法第20、29、42条)では、国会を通過した法案について、一定の議員の要求をもとに(少数派による拒否権として)、その当否を問う国民投票を実施する制度がある。両国とも、投票の過半数が反対で、かつ、アイルランドでは全有権者の33と3分の1%(憲法第47条)、デンマークでは全有権者の30%(憲法第42条)が反対であった場合に、当該法案は否決される(最低得票率型)。
上記のうち、アイルランドとイタリアでは、憲法改正の国民投票の場合には、最低投票率も最低得票率も課されていない。内容の重要性に鑑みれば矛盾するようにみえるが、こ
8 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.584
25 『衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団報告書』前掲注21, pp.215, 228によれば、イタリア憲法には、「現状を維持する」すなわち、議会が法律を制定したという「現状」および議会が憲法改正を提案しているという「現状」を維持するという原理・原則があるとされる。
26 “EU referendum could cost £80m,” 18 Jan 2005, BBC News のウェブサイト
27 “1999 Referendum expenditure estimates,” Australian Electoral Commission のウェブサイト
28 The Chief Electoral Officer of Canada, The 1992 federal referendum: a challenge met: report of the Chief Electoral Officer of Canada, Ottawa: The Officer, c1994, p.66.
29 『衆議院欧州各国国民投票制度調査議員団報告書』前掲注8, p.175.
30 山岡 前掲注7, p.124.
れは、国会という代表機関における判断に、より重きを置いているためと考えられる。すなわち、国会で既に議決された法律・法案を覆すには、要件を厳しくして、一定程度の有権者の参加を要するという意義が認められよう25。
9 国民投票の実施に係るコスト
イギリスでは、2005年1月、政府が国会答弁で、欧州憲法条約のための国民投票を実施するには、総選挙と同程度の費用がかかると想定されるとの見解を明らかにしたと報じられた。2001年6月に行われた総選挙の場合は、8000万ポンド(約141億円)であったという26。
オーストラリアの場合、1999年11月実施の共和制移行の是非を問う国民投票の支出見積額について、選挙管理委員会の「1999年国民投票の報告と統計」は、6600万豪ドル(約43億5000万円)としている。その内訳には、広告、投票用紙の準備、投票事務、パンフレット作成等が含まれる27。
カナダでは、1992年10月に実施された国民投票の執行費用は、1億350万カナダドル(約104億円)とされる。内訳には、広報、有権者登録、投票等が含まれる28。
スイスでは、国民投票1回あたりの費用は、約750万フラン(約6億8000万円)とされている。この中には、投票用紙に係る費用、改正する法律等に対する政府意見・反対意見の資料に係る費用、その他配布に関する費用、投票所に係る費用、集計に係る費用が含まれている29。
10 同一案件の凍結
国民投票で否決された同一案件を再度国民投票の案件とすることに対して、明示的に制約している例はあまりみられない。以下に、凍結期間が設けられている例を挙げる。
イタリアでは、法律廃止に関する国民投票においては、国民投票の結果が、当該法律全部またはその一部の廃止に反対するものであったときは、当該国民投票を行った後5年間は、同じ法律または同じ規定の廃止を求める国民投票を提起することはできない(国民投票法第38条)。なお、憲法改正については、国民投票により憲法改正案が否決された場合、国会における否決の場合と同様に、同趣旨の憲法改正案の審議は6か月間禁止されると解されている30。
このほかの例としては、エストニアでは、憲法改正案が国会または国民投票により否決
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されたときは、その後1年以内に同一事項の改正を発議することはできない(憲法第168条)。また、スロバキアでは、同一案件について国民投票を再度実施するには、3年経過後でなければならない(憲法第99条)。
同一案件について再度の国民投票により承認された例として、欧州連合条約に関わるものがある。デンマークは、1992年6月の国民投票でマーストリヒト条約を否決したが、後に経済通貨同盟や共通外交・安全保障政策などへの参加について適用除外が認められることとなったため、1993年5月に、再度の国民投票で同条約を承認した。また、アイルランドは、2001年6月の国民投票でニース条約を否決したが、後に欧州連合の共通外交・安全保障政策が同国の軍事的中立政策を害しないとの保証を得て、2002年10月の国民投票で同条約を承認した。いずれの場合も、欧州理事会において、条約本体には変更を加えることなく、付帯文書の形で当該国に配慮する合意がなされ、再度の国民投票において批准にこぎつけたものである。
◎本文注記に挙げた文献以外に、以下の文献を参考にした。
・阿部照哉・畑博行編『世界の憲法集 第3版』有信堂高文社, 2005.
・初宿正典・辻村みよ子編『新解説世界憲法集』三省堂, 2006.
・高橋和之編『世界憲法集 新版』(岩波文庫)岩波書店, 2007.
・福井康佐『国民投票制』信山社出版, 2007.
・European Commission for Democracy through Law (Venice Commission), “Referen- dums in Europe – an analysis of the legal rules in European states” (CDL – AD(2005) 034), 2 Nov 2005, 同委員会のウェブサイト ;当該報告主要部の草案段階におけるものの和訳が、『衆議院欧州各国国民投票制度調査議員団報告書』2006, pp.238-261に、「事務局仮訳」として収載されている.
・Bruno Kaufmann and M.Dane Waters ed., Direct democracy in Europe: a compre- hensive reference guide to the initiative and referendum process in Europe. Durham, NC: Carolina Academic Press, 2004.
・Matthew Mendelsohn and Andrew Parkin ed., Referendum democracy: citizens, elites and deliberation in referendum campaigns. New York: Palgrave, 2001.
【執筆】山田邦夫、山岡規雄、澤村典子、那須俊貴
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